もう退任するのに住所変更登記が必要ですか?

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皆さまの中には「社長が会社で一番偉い」と思い込んでいる方々がいらっしゃるかもしれません。

しかし法律上は、会社に財産を出資した構成員(例えば、株主や社員)こそが会社の実質的所有者であり、社長はその経営手腕を買われたに過ぎないのです。つまり社長は、株主や社員から雇われただけの、いわば雇われ店長的な立場でしかないのです。具体的には、社長が経営を失敗して損害を与えた場合には、損害を受けた会社や第三者から損害賠償請求を受けることすらあるといった具合でございます。

 

ところで社長に対する損害賠償請求は、裁判所でやることになるのが通常です。いくら株主や社員といえど

も、私的に制裁を加える特権まで与えられているものではありません。とはいえ裁判といっても容易いものではなく、、裁判を実際に開催させるためには、訴えた被害者からの訴状が、社長に対し、郵送される必要があります。ここで皆さまお気付きの通り、社長の住所が分からないと、裁判を始められないということになります。会社の代表者が、その住所を登記しなければならないのはそのためです。

 

前置きが長くなりましたが、代表者の住所が大切なものである以上、それに変更が生じた場合には、変更後の新しい住所を登記しなければならなくなるのは当然のことといえそうです。しかし原則があれば例外もあるのが法律です。つまり、代表者に住所変更が生じても、住所変更登記をしなくてよい例外的な場合があるということであります。

 

さて、代表者について、住所変更登記が省略できる例外的な場合ですが、それは重任の場合です。重任とは、退任したその日に就任することをいいますから、重任した代表者は、終始一貫、会社の内部に居て、外部に出ません。前述の代表者に対する損害賠償請求を常になし得る状態であるため、住所変更登記の必要性が緩和されるのです。更にいえば、重任の登記に当たり、どうせ新しい住所で代表者を登記し直すのですから、尚更、代表者に対する損害賠償請求に支障を生ずることがないということでもあります。

 

ただし法人登記では、手続が全て書面によってなされる書面主義が採用されています。代表者の重任登記に際して提出される書類との整合性によっては、住所変更登記の省略が認められないこともありますので要注意なのであります。そこで、例外的に住所変更登記が省略できる場合であっても、更に例外的に、住所変更登記を省略できなくなってしまうときについて、まとめて参りたいと思います。 

 

<重任する代表取締役の住所変更登記の要否のまとめ>

  住所の記載がある辞任届の場合 住所の記載がない辞任届の場合
登記上の住所と異なるとき

住所変更登記は不要

重任登記ゆえの例外です。

住所変更登記は不要

辞任届に住所の記載がなく、登記上の住所が変更したのか否かが不明だからです。

ただし、辞任届の実印につき添付した印鑑証明書の記載から登記上の住所が変更したことが判明するときは住所変更登記が必要です。

 

登記上の住所と同じとき

住所変更登記は不要

住変変更が見受けられないのですから当然です。

結局、辞任届に住所を記載せず、かつ辞任届に法人印で押印するか又は登記上の住所が記載された古い印鑑証明書を添付しさえすれば、たとえ実体上住所変更があっても、手続上住所変更登記が不要にできる可能性があることになります。