飲食業を目的とする会社が不動産を販売することは、会社の目的の範囲外の行為として無効になるか?

会社の事業目的に具体性は必要なのか。事業目的から外れた会社の行為の効力いかに?

法人は、私たち自然人と同じく「人」ではございますが、私たち自然人とは異なって、物理的な存在ではありませんので、健康増進のためにジョギングをする必要もなければ、繊細なハートも持ち合わせておりませんので、気分転換に競馬やボート、そしてパチンコを打ちに行く必要もございません。

 

 

しかし私たちと同じ「人」である以上、法人にも日本国憲法上の人権が保障され、人権が保障される以上、法律上の権利の主体となることもできます。ただし例えば、代金請求権という権利が、代金の弁済を受けると、その目的を達してその権利が消滅するように、権利のような観念的な存在はその必要性の限度でその存在を認めれば十分ですから、私たち自然人のように、万能の存在であることまで認める必要はありません。これと同様に、観念的な存在である法人もその必要性の限度でその存在が認められるにすぎません。

 

法人は、定款で定められた目的の範囲において、権利を有し、義務を負う。

民法34条にはこのように定められています。

言い換えますと、定款の目的の範囲では、法人はその存在すら否定されるとも思われます。これを、法人は人工的な創造物だから、あたかも電気製品のように、必要な目的をインプットしておかないと、その目的通りに作動してくれないのだと形式的に捉えてしまいますと、定款には個別具体的な目的をびっしり規定し、法人登記もあふれんばかりの目的を列挙しなければ、法人の存在すら認めてもらえないかに思えてしまいます。

 

 

かつては法人登記に目的として記載されていない事業に関して法人は無力であるとも考えられていたようです。その考え方によりますと、法人の存在そのものの肯否の判断基準とすべく、法人登記の事業目的は具体的に定めなければならない必要性に迫られますが、それも昭和45年までのお話ですのでご安心を!

 

 

現在では、法人の事業目的は定款に定められた目的そのものを遂行するために直接的又は間接的に必要になる行為の全てを含むと非常に広く解釈され、場合によっては、かの自○党で有名な政治献金まで法人の事業目的に含まれると考えられています(八幡製鉄事件)。ですので例えば、電気製品販売という大きな事業目的を登記しておけば、いちいちLED電球の販売、食洗器の販売、4Kテレビの販売、お掃除ロボットの販売などなどと具体的な内容まで法人の事業目的として登記する必要はないということになります。

 

 

最後にまとめますと、法人登記の「目的」は、抽象的なものでよく、いちいち具体的に列挙しなくて良いということでございます。したがいまして、飲食業を事業目的とする会社が、不動産を販売したとしても、例えば、使わなくなった飲食製品の保管用地を売却するのであれば、飲食業という定款に定められた目的を遂行するために必要な行為といえますので、不動産販売業が会社の事業目的として登記されていなかったとしても、会社の目的の範囲外の行為として無効になることはないことになります。